再生医療はここまできている
再生医療とは
髪の毛や皮膚などにある細胞から、神経や骨などを人工的に作り出し、人の組織を修復する治療方法のこと

iPS細胞やES細胞など万能細胞と呼ばれる研究段階の技術は、身体のさまざまな組織を分化させる可能性が示されております。歯の領域でも、将来的に失われた歯を作り直す技術として期待されておりますが、現時点では研究段階にあることを理解しておきましょう。

抜けてしまった歯には驚くべき力があった

幼いころ、抜けた乳歯を床下や屋根の上に投げた経験のある方も多いでしょう。親知らずの抜歯後、持ち帰ったという方もいらっしゃるかもしれません。こうした乳歯や親知らずには、歯髄細胞という歯の中の幹細胞候補が含まれている可能性があります。
幹細胞とは
分裂して同じ細胞を作る能力と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、増殖力を備えた細胞のこと
乳歯や親知らずの幹細胞は、歯の硬い構造に守られて比較的損傷が少ない状態で採取できるなどの利点が報告されており、iPS細胞を作成する研究も進んでおりますが、臨床応用には課題も多い段階です。
また、iPS細胞の作製効率が皮膚細胞よりも高いという報告もあり、歯から得られる幹細胞が再生医療の有望な素材として注目されております。ただし、これらはあくまで研究段階であり、現時点では歯髄幹細胞を用いた臨床的な再生治療は実用化には至っておりません。
歯の保存は歯の銀行へ

抜けてしまった歯は、時間が経つと乾燥や腐敗が進み、歯髄細胞は死滅してしまいます。
そこで登場したのが、ティースバンク(歯の銀行)という歯の保存サービスです。
ティースバンク(歯の銀行)とは
抜けた歯を将来的に医療や研究に活用するために、冷凍保存を行う機関のこと
ティースバンクでは、CAS(Cells Alive System)という冷凍技術を用いて歯を-196℃の液体チッソ中で保存します。
適切に保存された抜去歯は、将来の研究や再生医療の材料として活用できる可能性があります。
なお、保存した歯をそのまま再び口の中に戻す(移植する)という技術は、限定的な症例報告はあるものの、一般的な臨床技術として確立されておりません。将来的な発展が期待されている段階です。
抜去歯の冷凍保存の流れ
冷凍保存を行う場合は、再生医療研究所や歯科医院と連携して以下のような手順で進められます。
冷凍保存が可能な条件
冷凍保存ができる条件は、下記の通りです。
● 保存できるのは「健康な歯」に限られる
● 抜歯から長時間経過した歯や、大きな虫歯・歯周病のある歯は不可
● 糖尿病・肝臓病・骨粗鬆症など特定の疾患を持つ場合、利用が制限される場合がある

抜去歯の搬送

抜去した歯は冷蔵状態で24時間以内に再生医療研究所へ届けます。歯根膜や歯髄を損傷しないよう慎重に取り扱う必要があります。

顕微鏡による検査とデータ保存

歯の状態を実体顕微鏡で確認し、歯根膜や歯髄の状態をデジタルデータとして保存します。

クリーンルームでの処理

清浄度の高い「クリーンベンチ」で歯を前処理し、雑菌の混入を防ぎます。
クリーンベンチとは
細胞を扱う際に無菌環境を保つための装置のこと

冷凍保存

前処理を終えた歯は密封容器に封入し、液体チッソを使用して-196℃で凍結保存します。この技術により、20年~40年程度の長期保存が可能とされております。

歯の保存IDカードの発行

保存データは専用システムで管理され、利用者には「歯の保存IDカード」が発行されます。
再生医療の発展に伴い、必要なときに取り出せるよう管理されております。
必要な費用
ティースバンク(Teeth Bank)などの歯の保存サービスは、かつて存在した(あるいは提携歯科医院内で運営されていた)ものの、2025年時点では公式機関でのサービスが行われていないのが現状です。
歯を保存する技術は、現在でも研究が進められており、費用としては血液検査・歯の状態検査・輸送・冷凍保存などが含まれることになります。
まとめ

抜去歯の冷凍保存や歯髄幹細胞の研究は、再生医療の発展に向けて大きな可能性を秘めております。
自分の歯を将来の医療資源として保管するという考え方は広がりつつありますが、現時点では歯の完全な再生や移植が一般治療として確立しているわけではなく、研究段階であることも理解しておく必要があります。
将来の自分や家族の健康のために抜いた歯をどう活かすか、その選択肢のひとつとして歯の保存を考える時代はもうすぐだと言えます。





























































